第一の生(3/3)  
紀元前50年代 ガリアの森の中で     ロス作


オーリンが無事に村に帰ってくると、母親とジッタはどんなに喜んだことでしょう。オーリンは蜂の話、毒蛇の話、そのたびにシープルが命を救ってくれた話を何度も繰り返しました。ジッタはシープルを引き寄せて、オーリンを守ったことをほめました。
オーリンは村に残った部族全員に、ローマ軍の話、最初の戦いの話、シープルの活躍の話をしました。女、子供たちは、男たちが無事には帰ってこられないかもしれないと心配しましたが、留守を立派に守ることを誓い合いました。オーリンを女神「FREYA」が守ったように、他のものたちも守ってくれるはずだからです。そしてシープルは「FREYA」の使いとして全員から感謝されたのです。

長い長い戦いがやっと終わって、兵士たちが帰ってきました。戦場で命を落とした村人たちのために、村全体が喪に服しました。ジッタの父親は、大けがをしながら、やっと家にたどり着きました。ローマ軍の槍が、胸に刺さってその傷がどうしても閉じないのです。高い熱にうなされながら、意識もはっきりせず、寝たままになっています。ローマ軍の矢に倒れたと思っていたオーリンの無事な姿を見て、喜びましたが、あまりの高熱に、それが現実のことなのか夢の中のことなのかも、はっきりしないのです。

土地一番の治療師が呼ばれました。薬の入ったたくさんの壺やビンを運んでジッタの家に入りました。それからは一時も休むことなく、治療を続けます。一日に20回以上傷口を洗い、そのたびに薬を塗り込みます。せんじた薬を少しずつ飲ませ、部屋には薬草を焚いて息が楽に出来るようにするのです。
ジッタは、女神に祈りを捧げながら、治療の様子を治療師のそばを片時も離れずに見ていました。何も食べられなかった父親が治療師の薬はおとなしく飲みます。うなされるたびに大きくせき込んでいたのに、部屋の空気が薬草の煙で満たされると静かに寝られるようになったのです。ある時はこちらの壺とあちらの壺の薬を混ぜて、又ある時はあのビンの液体を入れてというように、一度として同じことをしません。でも、そのたびに父親は良くなっていくように思えるのです。もう、魔法を見ているようです。

こうして、2週間が経つと、ついに父親の熱は下がり、傷口のはれもひいていきました。治療師は金の針と草の繊維でできた糸を取り出して傷口もしっかりと閉じました。父親は完全に助かったのです。

部族の長の快復に村全体が喜びました。喪が明けて、皆が踊り、歌い、女神「FREYA」への感謝のお祭りになりました。もちろん次から次へと飲むのは、ビールです。どれだけ樽が空けられるでしょう。


「すばらしい。治療師はお父さんを死から救ってくれた。自然のめぐみを人間のために使う神秘の力を持っている。」
ジッタは、うっとりと治療師を見つめました。もう、迷うことはありませんでした。まっすぐに治療師の前に行くと、ひざまずいて頼みました。
「おねがいです。わたしをあなたの弟子にして下さい。どんなことにも耐えて立派な立派な治療師になります。」


その日から、ジッタは治療師の家に住み込むことになりました。治療師もこんなに熱心な弟子を見たことがありません。覚えることは、たくさんあって何年かかるか分かりません。薬草の見分け方、季節ごとに変わる採る場所も全部覚えなければなりません。薬の調合の仕方も病気やけがによって全部違うのです。そんなむずかしい勉強をしながら、病人、けが人を見舞う治療師に重い道具を背負いながらいつも着いていくのです。何年もきびしい生活が続きましたが、ジッタは熱心で覚えも早かったので、他の人よりもずっと早く一人前の治療師になっていきました。

一方、ローマ軍との戦いはまだまだ続き、村からも兵士が何度も戦いに出かけていきました。シーザーはベルガエの兵士の勇敢さに感心したのですが、やはり訓練されたローマ軍は強かったのです。ついに、ガリア地方はローマに降伏し、その一部になってしまい、さらにローマは遠征を続け、はじめてヨーロッパ全体はローマ帝国としてまとまったのです。ローマ帝国は、北アフリカからアジアの一部までも自分の領土とし、地中海のことを「自分たちの海」と呼ぶまでに繁栄したのです。
ガリアの民はみんな大大将ウェルキンゲトリクスのことを忘れませんでした。彼が捕虜としてローマに行くことを受け入れたために、シーザーもガリアの民を殺さないことを約束したからです。神「WODAN」そのもののように立派で、自らを犠牲にして民を救ったウェルキンゲトリクスは、ずっとガリアの民の心に英雄として残っているのです。


        *    *    *    *    *

「これで、わしの最初の生涯の話は終わりだよ。」
「そのあと、ジッタとオーリンはどうなったの?」

「オーリンも自分の思ったとおり、鍛冶の仕事について立派な細工をたくさん残したよ。ジッタはもちろん、ベルガエ地方でも一番の治療師になってたくさんの人を助けたんだ。たくさん子供を生んで、立派な母親にもなった。わしのたくさんの孫や曾孫もジッタの子供たちにかわいがられてみんなが森の中でしあわせに暮らしたのさ。」

もう、アネミーの涙もすっかりかわきました。目が輝いて次の話をせかせます。
「はっ、はっ、はっ。そんなに急ぐことはないよ。まだまだこれから、たくさん話があるからね。」シープルもアネミーがすっかり元気になってうれしそうです。
「次にあなたが生まれてきたのは、やっぱりローマの時代なの?」
「いやいや、神様は気まぐれなんだ。次にわしが生まれたのは1000年も後なんだよ...



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