| 1000年の間、時はゆっくりと流れていきましたが、イープルの森にも少しずつ変化が起こっていました。人間も多くなって、町が作られるようになっていました。森を切り開いたところに、家が集まってきたのです。シープルが二度目にこの世に生まれてきたのは、イープルの周りの広大な土地を持っているボードワン伯爵の居城「コロテ・メルス城」のなかでした。でも今度は飼い主になる人はいません。城の納屋の隅で三匹の妹たちと一緒に生まれたのです。そこでは、牛、馬、山羊、ロバ、豚、ガチョウ、ニワトリなどが、自分の場所を守りながら一緒に生活しています。わらがベッドの代わりになりますし、冬でもすぐそばに大きな動物がいるので寒くはありません。その上、ネズミは至るところにいますから、シープルにとっては天国のような場所でした。 納屋は一日中、にぎやかなところです。動物たちの泣き声だけでなく、城に出入りする人たちの声や物音が聞こえてくるのです。農夫たちは、城の台所へミルク、バター、ハム、ソーセージ、そしてもちろん野菜などを売りにやってきますし、町のお役人たちも毎日報告のためにやってきます。伯爵も又、狩りが好きで奥様たちと連れだって出かけ、夕刻になるとイノシシや鹿、キジなどを馬の背一杯にして帰ってくるのです。 大切なお客様があるときなどは、盛大な宴会が行われますから、城全体が大わらわの忙しさになります。そんな宴会の時には、門をあけて旅芸人の大きな荷車を入れることもあります。芸人や曲芸師、火を噴く男たちの出し物があり、音楽を奏でたり、踊ったり朝まで皆で楽しむのです。 シープルの母猫は、子供たちを引き連れて城中を廻り、ネズミの取り方を教えるのです。城の長い廊下や階段を通り物見の塔から地下室まで、ネズミの通り道を知り尽くすまで何度も教えらます。台所はもちろんのこと騎士たちが剣のけいこをする武器の間や奥様たちが竪琴を練習するサロンも走り回ります。 猫たちが暮らす納屋には、家のない人たちが雨や寒さを避けるために夜を過ごしに来ました。台所から残り物をもらって猫たちと分けたりするのです。そのなかに、年取ったピエールという名の男がいました。背が低くて痩せているので、ちょっと見ただけでは、ぼろ切れだけが歩いているようにも見えます。でも、いつもにこにこ機嫌が良くて、ハミングしながら町を歩き回っては、何百も知っている歌を子供たちに教えてやるのです。大人たちは、ピエールの姿を見ると顔をしかめましたが、子供たちと猫たちはピエールのことが大好きです。納屋の中でも、猫たちはピエールの周りに集まって、ピエールがわらやひもでおもちゃを作るのを楽しく眺めています。子猫たちもピエールの腕の中で眠るのが大好きです。ピエールは猫たちの親友なのです。 |
1000年の間にイープルの町も大きくなりましたが、一番変わったのはガリアの土地に新しい宗教が広がったことです。ガリアがローマ軍に負けてから50年くらいして、パレスチナの土地でイエスが誕生し、キリスト教という新しい教えを説いたのです。ローマ帝国もキリスト教を帝国ただ一つの宗教として、その教えを広げることをすすめました。ローマにいる法王は、各地の民族をキリス教化するために帝国各地にたくさんの宣教師を送りこんだのです。ローマから遠く離れたイープルの町にも、キリスト教の教会ができ、そこには法王の代理人・司教が住んでいました。キリスト教というのは、ただ一つの神様だけを信じる教えですから、ガリアの民のように森の女神「FREYA」や大木神「WODAN」などたくさんの神様を信じることは許されませんでした。エジプトやギリシャなど帝国各地で同じようにたくさんの神様を信じていた人たちは、元からの神様を見捨てなければならなかったのです。キリスト教会の命令に従わないと死ぬことになるのです。 そんなある日、イープル司教の使いが、伯爵の城にやってきました。イープルの人たちが今でも森の神たちを信じていることを知った司教は、イープルの領主である伯爵にその責任を取らせようとしたのです。悪知恵の働く司教は、直接イープルの人たちを罰して反感を買うよりは、伯爵から命令させようとしたのです。 伯爵は悩みました。伯爵もガリアの民の一人として、何千年も森の中で暮らしたガリアの民にとっては、全ての自然のめぐみは「FREYA」をはじめとしたたくさんの神様からの贈り物だ、ということが分かっていたからです。その神たちへの祈りを急に禁止することが出来るでしょうか。でも、司教を納得させなければ、ローマ法王に背いたことになり、伯爵も家族も全員殺されてしまいます。何とかうまくこの難題を切り抜ける方法はないものでしょうか。 思い悩む伯爵に、城で道化として仕えている男がそっと耳打ちしました。 「伯爵様、私にいい考えがあります。これで、伯爵様も罰せられずにすみます。」 伯爵が殺されては、自分も仕事がなくなってしまいますから、道化師もしっかり考えました。さあ、司教を納得させられる道化師の計画とはどんなものでしょうか。 |
第一の生(3/3) 第二の生(2/3)
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