シープルは、城の台所で見つけたネズミを地下の倉庫まで追いかけてやっと捕まえました。今までで一番大きなネズミです。お母さんや妹たちに自慢しようと納屋に帰ってきたのですが、そこには誰もいないで大変なちらかりようです。シープルたちの寝ていたわらのベッドやピエールが作ってくれたおもちゃがみんな踏みつぶされているのです。シープルには何があったのかよく分かりませんが、怖くなって毛が逆立ってきました。「シープル?シープルなの?」上の方から小さな声が聞こえます。見上げますと、太い天井のはりの一番隅っこにみんなが小さくなって隠れているのです。 「どうしてそんなところにいるんだい?」 入ってきたのがシープルだと分かったのでしょう。みんなそっと飛び降りてきました。 「ああ、シープル。おまえは無事だったんだね。」母親は、ぶるぶる震えながらやっとのことで、何があったのか話し始めます。 |
| お昼前に城の召使いが二人納屋に入ってきて、いきなり大きな袋を手に猫を追い回し捕えようとしたのです。こんなことは初めてなので、納屋の中は大騒ぎです。入り口に近いところで寝ていた年取った猫と子猫が二匹捕まりました。奥まで入ってきましたから、シープルの母猫は、妹たちを逃がそうと一人の男に飛びかかり顔を思い切りひっかいてやりました。さあ、それからがさらに大変です。怒った男は仲間を呼びに城に入って、今度は太い棒を持って帰ってきました。まだ納屋の床にいた猫めがけて、棒を振り回し殴りつけます。気を失った猫を次々に袋に入れていくのです。梁の上に逃げ上がって下を見ている猫たちも怖くてたまりません。その時です、納屋の裏で日向ぼっこをしていたピエールが猫たちの悲鳴を聞いて入ってきたのです。召使いたちは、そこをどけと叫ぶのですが、ピエールは逆に、棒をもった男に体当たり、棒を取り上げて殴りかかります。あの痩せたピエールのどこにそんな力と勇気があったのでしょう。棒をとられた男たちは、殴られて逃げ回ります。その隙にピエールは猫の入った袋を取り上げて逃がしてやります。気を失って動けなくなった猫を抱えて外に逃げようとしたのですが、たくさんの若い召使いたちにはかないません。押さえつけられ棒を取り返されて頭を殴られました。ばったり倒れたピエールに、召使いたちは殴ったり蹴ったり容赦はありません。それから、ぐったり動けなくなったピエールを城の中へ引きずっていったのです。袋に捕らえられた猫たちも一緒につれて行かれました。 母親の話を聞きながらも、妹たちはまだ震えています。 「それで、ピエールは殺されたのかい。」シープルも心配でたまりません。 「いやいや、殺されはしなかった。でももっとひどいことになったんだよ。」母親は悲しそうに目を閉じました。「私たちの命の恩人ピエールは、城の地下牢に投げ込まれたのさ。」 納屋に残っていた大人の猫たちは、全員大きなため息をつきました。でも、シープルには分かりません。生きているなら、良かったはずです。 「地下牢に入れられるっていうのは、シープル、殺されるよりもむごたらしいことなんだよ。城の一番深いところに小さな穴が掘ってあって、昼でも光は届かないし、年中ジメジメしていて、息もできないくらいだよ。それよりもっとひどいのは、あそこにいる大ネズミたちさ。私よりも大きいのがたくさんいて、投げ込まれた弱った人間を生きたまま食べてしまうんだよ。」 聞いていたシープルは、ぞっとしました。そういえば、城の地下へおりていったときに何度か見たことがあります。とてもネズミとは思えませんでした。お父さん猫でも、近寄らないようにしているのです。それが、ピエールを食べてしまうかもしれない。 「どっちにしても、ピエールは助からないよ。食べ物もくれないんだからね。本当に城の連中はなんてひどいことをするんだろう。」大人たちは、ピエールの懐かしい話をはじめました。誰も聞いたことのないような面白い歌を次から次へと歌ってくれました。藁と木で何でも作ってくれました。一番おいしい薫製肉をもらってきては、自分は食べずに猫たちにくれました。シープルもピエールの暖かいお腹の上で居眠りしたことを思い出していました。 「お母さん。ピエールを助けてやろう。」とつぜん、シープルは叫びました。みんなびっくりして、シープルを見つめます。他の子猫たちも口々に叫びます。 「ピエールを助けて。」 お母さんは、困った顔をして他の大人の猫を見まわします。 「そんなことを言ったって、あそこには大ネズミがいるし...」 「でも、僕たちは猫じゃないか。ネズミなんか怖くはないよ。」 「たとえ、大ネズミからピエールを守ってやれたとしても、食べるものもないじゃないか...。ピエールは人間だから、生きたネズミは食べないよ。」 「それなら、みんなで運んでやろうよ。台所からピエールの好物を僕が毎日もらってきてやるよ。食堂でも、テーブルの下にいればいくらでも手にはいるじゃないか。」 「そうね、私たちだって、奥様たちに気に入られるようにしていれば、もっとおやつをたくさんもらえるわ。」妹たちも、シープルを応援します。 そこへ、城で一番強いシープルのお父さんたちとおす猫たちが帰ってきました。お父さんは、納屋の様子にびっくりして、お母さんの話を最初から聞きました。子供たちは、口々にピエールを助けてと泣いて頼みます。 お父さんは、しばらく考えてから、子供たちの顔を順番に見つめて言いました。「よし、分かった。ピエールは私たちみんなの友達だし、私たちを助けようとして牢へ入れられた恩人だ。みんなで助けてやろう。でも、これは簡単なことじゃないぞ。先ず、強い猫を集めて地下牢まで行き、大ネズミが近づかないようにずっとそばにいてやらなきゃいけない。大人たちがで順番で守るんだ。それから、食べ物。ピエールに毎日、人間が食べられるものをたくさん集めて運んでやるんだ。それも、いつ地下牢から出られるか分からないのだから大変なことだ。子供たちも、みんなで力をあわせなきゃいけない。みんな、分かったな。」シープルのお父さんの言葉に、みんなは喜んで賛成したのです。 |
さあ、それからは毎日たいへんです。雄猫たちは、組になって地下牢までおりていきます。じめじめした真っ暗な狭い階段の先に太い鉄格子があって、猫でもやっと通れるくらいです。そこでは、もうすでに、大ネズミたちがピエールの服を食いちぎっていました。次から次につついてくる大ネズミの攻撃にピエールも手で払いのける気力もなくしかけていました。猫たちはぎりぎり間に合ったのです。真っ暗な中での激しい格闘がありましたが、強い雄猫を選んでいますから負けるはずはありません。大ネズミは一匹もいなくなりました。急に静かになった暗闇の中で、ピエールには何があったのか分かりません。そんな暗闇の中に、きらきらと光るものがあります。そして、なつかしい猫の鳴き声が聞こえてきたのです。「おう、おう。」ピエールはそれが猫たちだと分かって、暗闇に両手を差し出します。猫たちは次から次へと、ピエールに飛びついてゴロゴロのどをならします。 「ありがとう、ありがとう、わしが死ぬ前にみんなで会いに来てくれたんだな。」ピエールは涙を流して喜びました。 もちろん、猫たちの計画はそれだけではありません。ピエールのための食べ物を集めてまわります。調理をしたものでなければなりません。台所には、いつもよりたくさんの猫が机の下に隠れています。調理人がちょっとあちらを向いたり、話に夢中になっている間に、サッと走り出てハムやチーズをいただきます。 伯爵様の食事時になると、きれいな猫はさらに身ずくろいをして、テーブルの下に並びます。このころは、まだ一人一人がお皿に取り分けることをしません。大きなお皿に載った料理を少しずつパンにとって食べるのです。ですから、パン切れと一緒にたくさんおこぼれが出来るのです。そこに、お気に入りの犬や猫がはいって食事が出来るということなのです。犬たちよりも早く大きな切れ端を口にした猫から順番に部屋を出て、ピエールのためのかごに入れに走ります。 子猫たちも頑張ります。まだ小さい猫たちは、奥様たちのひざにのってかわいくのどを鳴らして甘えます。じっとお行儀よくしていれば、かならず甘いおやつがもらえるのです。 こうして、肉や魚だけでなく、パンや甘いお菓子までそろいました。地下牢のピエールも驚きました。猫たちが会いに来てくれただけでうれしいのに、毎日毎日たいへんなごちそうが運ばれてくるのです。ピエールにも分かりました。猫たちは、自分を助けよう、生かそうとしているということが。うれしくてうれしくて、涙が流れます。こんな暗闇の中でも、生きる力がわいてきます。いつもそばには猫たちがいて、夜寒くなると毛のふさふさした猫が何匹も、ぴったりと体に寄りついてくるのです。寒さもひもじさも寂しさもありません。一日中猫たちに、たくさんたくさん歌をうたってきかせるのです。 さて、イープルの町には年に一度のお祭りが近づいていました。それはケルメスと呼ばれていました。町中が出し物や市で大変にぎやかになります。でも、心配なことがひとつありましたる。納屋から連れて行かれ猫たちのことです。ケルメスの日には、司教もやってきます。伯爵様はその日までに何とか司教への返事をしなければならないのです。実は、あの道化師の計画は、このケルメスの日のために考えられたものでした。その計画とはいったい... |
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