| 「早く、早く、次の話を聞かせて。」 「よしよし。」と、シープルはうなずきましたが大きな目を閉じて黙ってしまいました。しばらくして、ちょっと遠くを見つめるように上げた目には涙が浮かんでいるように見えます。 「どうしたの、シープル。そんなに悲しいつらい目にあってしまったの。」アネミーは心配になってたずねます。 シープルはやさしくほほえんで、大きく息をするとアネミーの頭をそっとなでてやります。 「心配してくれてありがとう。わしのことなら大丈夫、何があってもいつも頑張って生きてきたからね。悲しいのは..」とシープルは又目を閉じました。 「悲しいのは、人間と猫の仲がすっかり悪くなってしまった事なんだ。人間はもう猫を大切にすることをやめてしまった。それからは何百年も、猫は人間から嫌われてしまって、ヨーロッパでは、高い塔から生きた猫を投げるイープルのようなお祭りが増えたんだ。さあさあ、それじゃあ、わしの三つ目の生涯の話を始めよう。」 * * * * * * シープルは二匹の弟と生まれました。母親は獲物を探すのに忙しくてみんなに名前を付ける暇もありません。そんな母親がいつもこう言います。 「いいかい、おまえ達。大きくなっても絶対人間を信用しちゃあいけないよ。人間ていうのは残酷で意地悪な生き物だっていうことをよおく覚えておくんだ、いいね。」 子猫たちは人間がどんな生き物か見たことがありませんから、何のことか分かりませんが、母親の話にぞぉーとしてしまいます。それでもそんな話は直ぐ忘れて、毎日毎日、布地の倉庫で転がりながら楽しく遊んでいました そんなある日のこと、 三匹が一番奥の赤い生地の上で遊んでいたときのことです。弟がこちら側を見つめる茶色の二つの目を見つけたのです。それは、ドアの隙間からそっと中をのぞき込んでいる小さくて痩せた人間の少年の目でした。それが人間という生き物だと知らない子猫たちは、少年に駆け寄ります。少年もドアを大きく開けて、そっと手を差し出します。子猫たちは一瞬だじろぎますが、よれよれのシャツを着て小鳥のようにやせた少年は、順番にやさしく撫でてやるのです。シープル達が丸くなって遊び始めると、少年もひざまずいて手を打ってうっとりと見入っています。 「さあ、もう行かなくちゃ。親方の所へ帰らなくちゃいけない。又来るからね。」そういうと少年はドアを閉めていってしまいました。 「あのやさしい生き物は、いったいなんだろう。」シープル達は口々に言います。 「でも、人間じゃないよね。だってママは人間は恐ろしい生き物だって言ってたもの。」 次の日も少年はやってきました。子猫たちもすっかりなついて穴の空いたズボンにはい上がったり、ちょっと上を向いた鼻をなめたりして、30分も一緒に遊んだでしょうか。鐘楼の大きな鐘が鳴り出すと、少年ははっとして子猫たちにキスすると 「こんなに長い間親方だけを働かせてしまった。」と言うと、あわてて帰っていきました。 こうして、子猫たちとこのニコという名前の少年は毎日昼の少しの間楽しく遊んでいたのです。ところが... 「ワーァ」少年ニコはびっくりして飛び上がりました。子猫たちもひっくり返ってしまいました。 いつもより早くねずみ取りから帰った母親は、子猫たちと人間が一緒にいるのを見て、ニコに飛びかかったのです。目をつり上げ、耳もとがらせて、爪と牙をむき出し、うなり声を上げてニコをにらみつけています。子猫たちもこんなに怖い顔の母親を見たことがありません。 ニコは生地の山の裏に隠れて泣き出しました。 「僕は何も悪いことをしていないよ。かわいい子猫たちと遊びたかっただけなんだ。」 「そうだよ、ママ。ニコは僕たちの友達だよ。」シープル達も口々に言いますが、母親は歯をむき出して大きな声で叱りつけました。 「これが、人間なんだ。もうこれから、絶対にこの人間に近づいちゃいけないよ。分かったね、おまえ達。」 |
第二の生(3/3) 第三の生(2/4)