「イープルの猫物語」
プロローグ(2) ロス作

アネミーは一人きりで泣きました。でも、本当に一人きりなの?誰かが隠れていて、急に肩に手をかけられて、びっくり仰天、飛び上がったりして...

そうです、しばらくこの大きくて静かな会館で一人っきりで泣いていたアネミーに、びっくりすることが起こったのです。何かが、いえ、誰かが肩をたたいたのです。心臓が止まるほどびっくりして振り向いたアネミーは、もっと驚いてしまいました。肩をたたいたのは、誰かの手ではなくて、白と黒の大きな大きな猫の足だったのです。

びっくりして声も出ません。この大きな足の持ち主をよく見ようと見上げると、それは猫の王様シープルではありませんか。どんな魔法を使ったのでしょう、もう布と紙でできた張りぼての飾りではありません、でんと腰を下ろして丸々とした生きた巨大な猫なのです。おおきな緑色の目は、らんらんと輝いてアネミーを優しく見つめています。ごろごろとのどを鳴らす音は、天井や壁までまでびりびりとひびかせています。長いひげも月の光にきらきらしていますし、2メートルはありそうな長い尻尾も左右にゆっくり揺れているのです。
でもやっぱりアネミーの知ってるシープルです。王冠をかぶっているし、赤と白のえりまきもしています。アネミーは、涙も乾いてしまって、ただぼぅっと口をあけて見上げるだけです。この巨大な生き物がしゃべりだした時には、もう夢を見ているようです。
「んーっ。おまえは、私の最初のご主人によーく似ているなぁ。あのご主人も、おまえと同じように、おおきなガラス玉のような涙を流していたよ。」
「あーっ、」アネミーには信じられません。「話ができるなんて、すごーい。」
巨大な猫は、大きな目を閉じて、もう一度ゆっくりとあけました。優しい笑顔です。
「気に入ってもらえてうれしいよ。でも、こんな風に秘密をみせるのは、あまりないんだ。さあ、いったいどうしてそんなに泣いているのか、訳を聞かせておくれ。」

アネミーは、そのやさしい声に恐さはすっかり忘れてしまい、壁によりかかるように座り直して、ミヌーのこと、事故のこと、お父さん、お母さんが困ったこと、家を抜け出してきたことを全部話しました。シープルは何度もうなずきながら聞いてくれました。
「悲しい事故だったねえ、でもお父さん、お母さんに死んでしまうなんて言っちゃあダメだよ。かわいそうじゃないか。どんなにおまえのことを心配しているか、わかるかい。」
アネミーもうなずきます。「ほんとにそうだったわ。私はいけないことを言ってしまった。あんまり悲しかったので、何も考えられなかったの。」

シープルは優しく見つめながら、ゆっくりと言います。
「さあ、もっとそばに来て、ゆっくりそこにすわりなさい。これから私が、ひとつ話をしてあげよう。」シープルはゆっくりと話し始めました。

「あれはもう、2000年も前のことになるかな。」
「えっ、あなたはそんなにお年寄りなの。」アネミーはおどろいて聞き返しました。
「はっ、はっ、はっ。」シープルは壁のガラスが全部こわれてしまいそうな大きな声で笑いました。
「私たち猫はみーんな九つの生涯をもっているんだよ。だから、おまえのミヌーも、また生まれ変わって優しいご主人に出会えるさ。」
アネミーは、ミヌーのことを思い出して、又ちょっぴり涙が出そうになりましたが、もう話が聞きたくてうずうずしています。

「よしよし、それじゃあ、これから最初のご主人の話をはじめるとしよう...



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